雨上がりの傘 ①
また折れてる。
息子の傘はひと月ともたない。
本人は何も言わないけれど
開いてみると折れている。
「なんで?どんな使い方しているの?」
「うーん、わからん。」
と、首をかしげる。
ある日の午前中、
どしゃぶりがあがった初夏の
眩しい昼下がりのこと。
狭い道路を家路に向かっていた。
車の少ない道路だから、
水たまりもできていて、
跳ねないようにスピードを落とす。
うん?
左の曲がり角の先に何か見えたぞ。
男の子の姿だった。
くるりと曲がりもう1度来た道を戻り、
左の角を曲がった。
いたいた。男子2人。
何してるのかな?
近づいてみると、道路横の空き地に
たまった水たまりで遊んでいた。
「ぎゃー! ガハハハハー。
かけすぎじゃー」
「ザマーミロー」
息子だった。
子供会の仲良しの年下の男子と
そりゃもう楽しそうに水遊びしている。
笑いすぎて、よだれまでたらしいている。
ひしゃくがわりに使っているのは
傘だった。
ダブダブに雨水をいれて
振り回している。
折れるはずだ。
そういことか。
何が「うーん、わかんらん」だ。
息子はノーテンキだった。
赤ちゃんの時は違っていた。
2人目の長男として待望の男の子として
我が家に迎えられた。
同居している主人の両親は
目の中に入れても痛くないように
可愛がった。
でも寝ない子だった。
30分寝るために1時間泣いて
起きてまた1時間泣く。
結局お昼寝させるために2時間
あやさなければならなかった。
長女がコロリと寝る子だったから、
この毎日のお昼寝が辛かった。
それに男の子の母乳を飲む量は
半端じゃなかった。
リンパ液まで吸い込んでるじゃなかろうかと
思うほどに、母乳を飲む。
私はみるみる疲弊した。
ミルクを足さないと無理だった。
目を離すと長女がチョッカイをだす。
やっと寝せた、と思うと泣き出す。
2人目の子育てがこんなに大変だと
思わなかった。
夫もその頃とても忙しくて、
土日は月に2回は県外に出ていた。
長女の時は寂しく感じた
義母の子守も
長男になるとありがたく
ずっとお願いします、と
言いたいくらいだった。
が、夜になると夫も帰りが遅く、
古くて広い家だったから
入浴、就寝の世話が
真冬は本当に大変だった。
子供達との暮らしはもっと
楽しいものだと思っていた。
すっかり余裕をなくした私は
長男を可愛いと思えなくなっていた。
泣かれるのが辛くて、
眠ってくれないのが辛くて、
この子はいつ落ち着いてくれるのだろう
早く大きくなって
早く大きくなって
心の中で、いつもそう願っていた。
そんな私の気持ちをよそに
長男はなかなか歩かなかったし、
言葉も遅かった。
つづく
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