雨上がりの傘  ⑤ 秘密基地

なぜ男子は
秘密基地が好きなのか。

子供の頃は女子だって
1度くらいは秘密基地で
遊んだ思い出も
あるとは思うけれど
男子の思い入れとは
だいぶ違うようだ。


息子も小学校3年には
秘密基地という言葉に魅せられていた。

地元には大きな神社と
周辺に広い公園があった。
階段を登っていく周囲の斜面には
周りから見えにくい
場所がいくつもあった。
格好の秘密基地になった。

当時流行っていたポケモンカードや
お菓子を持ち込み
男子数人で
その場所で遊ぶのが
日課になった。

もう少し大きくなると
高いところに秘密基地を
作りたくなった。
家の裏に登れそうな
カエデの木があった。
金槌と釘が持ち出されて
枝の間に板を貼り
やっとこ1人
座れるようにして
秘密基地にしていた。
家庭訪問中に
通りかかった担任の先生が、
木の上の息子を見て
「いいなぁ、お前はいつも楽しそうだなぁ。」
と、声をかけた。

息子はいつも自分の中の
「楽しそう!」という想いに
忠実だった。

その分、周囲は振り回されるのだが。

学校の自由時間に
粘土でガイコツを作りたいと思った。
自分の粘土で頭を作った。
体全体を作りたいと思って
友達のも借りようとしたら
断られた。
先生にどうしても作りたいと
言い続け、根負けした先生は
毎日1パーツずつ作ることを
提案してくれた。
そして、毎日できたパーツを
写真に撮ってくださった。

全部の写真をくっつけて
広用紙大のガイコツ一体が
出来上がった。
息子は大満足だった。

今思い出しても
素敵な先生だった。


秘密基地に戻ろう。
そんな、「楽しそう」が
大好きな息子が
もっと本格的な秘密基地を
作りたいと言い出した。

中学生になっていた。
中学生になっても秘密基地、、、
と、思ったが、
言い出したら聞かないのは
わかっていた。

中学から進学のため
地元の田舎を離れ
子供達と私で市内に移り住んでいた。

どこに行けば作れるのか?
その問いに
市内の丘程度の山の名前を
2つあげた。

しかしその1つは自然公園で
同じ遺伝子を持つ父親が
小学校6年生の時にその場所で
秘密基地を作って
管理の人にこっぴどく叱られた話を
聞いていた。

もう1つの山に行ってみることにした。
息子はやる気満々で、
すでに集めていた木材とロープと
金槌やらを大きな袋に入れていた。

友達も一緒だった。

その山の近くに行って
驚いた。
なんと登り道沿いは
ラ◯ホテルが並んでいた。

しまった、と思ったけど、
やる気満々の男子3人に
中止は言い出しにくく、
山頂の公園まで登ってみた。
小さいけれど、自然もあり
ホッとしてそこで降ろした。


夕方になって
息子が帰ってきた。

秘密基地の話を聞くと
口をとがらせて答えた。

「いい感じの場所を見つけて、
 棒を立てたり、紐をはったり
 してたんだよ。
 そしたら、お巡りさんが2人きて、
 『君たち、何してるの?』
    と、聞いたから
 『秘密基地を作っています。』
    って、言ったんだよ。
 そしたら笑って
 『そりゃ、楽しそうだけどね。
  ここは私有地なんでね。
  人の土地なんだよ。
  中学生が何やらやってるって
  連絡もらったからさ。
  ここで秘密基地は作れないんだよ。』
      って。
  それで、交番に連れてかれてさ。
  『気持ちは、わかるけどね。
  一応、名前と住所書いといて。
  学校には内緒にしとくよ。』って。

  秘密基地作ってだだけなのに
  補導されたんだよ。」

びっくりした。
今、そんな世の中なんだ。
田舎とはだいぶ違うんだね。
安易に案内したことを
反省した。

そんな理由で中断した
秘密基地作りは
息子の中で不完全燃焼になり、
ぷすぷすと
小さな炎を燃やし続けていた。

                 つづく


 















トリニティ

回り続ける三つの渦が、 織りなす世界を綴ります。