選んでいいの? 涙の告白③

そんな長女の告白を受けて

1番感じたのは



彼女の心の奥底、

まるで深い滝つぼにダイブしたみたいに、

そこには本当に澄んだ水しかなくて。



ああ、そうだったんだ。



中学3年から始まった反抗期。

学校で先生の言葉に壁を蹴飛ばしたり

私の発言に

「そんなにお母さんの考えを押し付けるなら、

 いつかお母さんを刺すから!」

とすごまれたり、

休みがちになったと思えば

「学校辞めます。」

発言にアタフタしたり、


次から次に何をそんなにイライラしているの?

思春期ってそんなに難しいの?



なにせ一人目の娘だから、

私もハラハラ、ドキドキの毎日で

振り回されて、振り回して、

お互い疲弊する日々



でも、「そうだったのね」って。



言えなかったから、ずっと苦しかったんだ。

心の中でずっと

「やってみたい」と思いながら

「いやいや、選べる職業じゃないでしょ」って、

自分で打消してきたから。



私の中でもやっと腑に落ちて


 やってみればいいじゃん!


 選んでいいよ。
 そんなに描きたいなら
 我慢することないよ。


って、拳をにぎりしめながら言った。



でも長年の呪縛はそう簡単にほどける

ものでもなくて

長女の中では、それこそやっと

口に出せたけど、

本当に選ぶのはとてもとても

怖いことだったのだ。



  もし、失敗したら?

  大学の途中でやめたくなったら?

  もう一回大学を選びなおすの?

  もう一回大学行かせてくれるの?



彼女の中で渦巻いていた不安が

一気に噴き出して、質問攻め。



  とにかく今画を描いてみたくて

  たまらないなら

  その気持ちに従って描いてみればいい。


  思いを残したまま先には進めないから。

  大学を選ぶ前から画を習って、

  自分でも毎日のように描いてみて、

  やっぱり好きだったら

  大学を選んだらいい。


  大学まで行って、

  違うと思ったらその時また

  何をしたいか考えればいい。

  本当にやりたいことがあれば、

  なんとか道は開けるはずだよ。



それしか言えなかった。

私にはそんなにやりたいこともなくて

わからなかったけど、



いつの間にこの子は

道は一つしかなくて、

やり直しができなくて、

今の選択がずっと

続いてしまうんだと思ってしまったのだろう。



日常の大人や先生の会話を

子供たちは思った以上に

聞いているのかもしれない。



「大学までいってそんな仕事している。」

「資格が取れないと意味がない。」

「あの仕事は収入もいいし、やりがいもある。」

「その選択がすべて大学受験にかかってくる

 んです。」

 


確かに受験の説明会では〇〇模試の人は

脅しのように言われていたし

私も「そりゃ大変!」とばかりに

そう思っていた。



でも実際の社会はそこまで過酷でもなく

やり直した人もいっぱいいることを

大人は知っている。



でも子供は、

すっかりそれを真に受けた子供たちは?




子供たちが夢を見れない、

語れない雰囲気を作っているのは、

私たち大人の制限をかけた

話し方なのかもしれない。



そんなことを考えながら、

 「明日、担任の先生に『画を描きたい』って

言っておいで。

 『文系でいきます』って。」

そう伝えた。



 「そんなこと言ったら、びっくりされない

  かな?」


 「びっくりされても、そうしたいならまずは

    言わないとね。」


ようやく決心もついたみたいで、

泣きはらした顔で少し笑った。


子育てを一生懸命しているつもりで、

一緒に考えてるつもりでも

知らず知らず制限をいっぱいかけて、

誘導したり

傷つけてきてしまってたんだな。

そんな思いがすごくあって



 お母さんは応援するよ!

 できるだけバックアップするから!



なんだかすごく力んだ決意をした。
それもまた新たな呪縛をうむことになるとは
つゆほども思わず、世間を敵に回しても~って
勇ましい気持ちになっていた。


それでも長女の画家への扉は、

やっとの思いで口にしたその日から、

少しずつ開いていった。

                            たぶん、しばらく つづく 



トリニティ

回り続ける三つの渦が、 織りなす世界を綴ります。