選んでいいの?涙の告白⑤


夏休みのオープンキャンパスの時期までに
志望校を見つけなければならなかった。
美術系の国公立の大学、
それが私達、親からの進路の条件だった。

美術系の国公立は少ない。
教育学部の美術系には興味がない。
そもそも学校が嫌いだし。
そしてセンター受験になるので
画だけではなく、学力も必要になった。

大分?広島?どこなら受かりそう?
親は受かりそうなところから考える。

でも長女にはすでに行きたい大学があったのだ。
ある意味無謀な。

高校2年の4月に草間弥生展に出かけていた。

「永遠の永遠の永遠」


全ての作品の解説を読み
ドキュメンタリーも見て、
彼女が精神病による自殺願望と戦うために
画を描いていたことを知った。

「草間弥生すごいんだよ。
 ドキュメンタリーを見て涙が出た。
 誰にも理解されなくて苦しんで
 苦しんで、でも画を描くことだけが
 救いだったんだよ。」

興奮気味に語っていた。
ありがたいことに高校生は無料だったし、
期間中3回見に行って、ずいぶん長い時間
そこにとどまっていたようだった。

そのころから決めていたようだった。
私が取り寄せた大学のパンフレットには
目もくれなかった。

「K大学の日本画に行きたい」


草間弥生の母校である。
よく知らなかったが、
日本で一番古い芸大なのである。

西のK芸、東のT芸大と言われるそうな。

 今頃から画を習いはじめて
 そんなところに行けるのか?

その疑問は正解だった。
画の難しさだけでなく、
偏差値も高かった。

兎にも角にも、オープンキャンパス。
とにかく目で見て、
本当にそこに行きたいのか
確かめて。 

長女は8月のある日1人で京都に向かった。
本当は少し不安だった。
バスの中で眠りこけて、
ipotをなくしたり、乗り過ごしたり、
1人で行動するとうっかりが多すぎる。

でもこれから先を思うと、
1人で行かせることにした。

案の定、朝寝坊をした。
きっちり立てて渡したスケジュールが
何の意味もなくなっていた。
京都駅から出ていたオープンスクール用の
巡回バスに寝起きの顔で飛び乗ったらしい。
京都駅から1時間かかるその大学は
思ったより小さかったそうだ。
でも至るところに飾られて
主張している画は
憧れを強くするには充分な
詩的な画だったらしく

すっかり決意を固くして帰ってきた。


画もさることながら、
低下した学力は
どうするんだろう。

本人はそんなこと
気にも留めていないようだが
そうそう学校も休めなくなることは
わかっていたようだ。
少し欠席が減ってきた。

秋が深まる頃

また事件が起きた。


                 つづく








トリニティ

回り続ける三つの渦が、 織りなす世界を綴ります。