選んでいいの?涙の告白⑥


午前中にいきなり帰ってきた長女は

怒りのオーラをまとっていた。


学校を抜け出してきていた。

「もう嫌だ。
    学校には行きたくない。」

その日は文化発表会だった。

聞いた話はこうだ。

クラスの出し物のリーダーがいた。
その日に向けて構成を練って、
練習を仕切ったのも彼女だった。
もう仕上がる頃に
長女がそのリーダーと違う意見を
主張した。

一気に雰囲気が悪くなった。
他の子たちも今更という表情で
誰も賛同しなかった。

翌日から空気が変わった。
話しかけても返事がない。

そして発表会の当日、
準備していると
いない人のように扱われた。

「もう嫌だ。
    なんで意見を言ったらいけないの!
    頭おかしい。」

泣きながら話す長女。

子供の時から何度も似た状況を目にしてきた。

親としてはなんとも切なかった。

どうしてそんなに
主張してしまうんだろう。
つい、
「一生懸命に考えて作り上げている人から
 すれば、安易に変えようとと言われたら
 ムッとするよ。
 それはお母さんもわかる気がする」

すると、長女がキレた。

「お母さんは嘘つき!

 私の応援をするって言っても
 何かあると、いつも私が悪いって
 言うじゃん。
 お母さんは味方じゃない!
 私には誰も味方がいない!」

胸をえぐられた気がした。

  味方


彼女が求めていたのは
ただただ自分を
肯定してくれる味方だった。


たしかに私は味方ではなかった。
母親だから誰よりも子供たちを
守らなければ、と思っていた。
だからいつもたしなめていた。

「もう少しうまく人と付き合うためには、
    こうした方が良かったんじゃない?
 それは○も悪いよ。」

でもそれだけではなく、
彼女の言動に共感できなかった。

自己主張が強いのだ。

この遊びがしたい。
今度は私がやる。
思い通りにならないと地団駄ふむ。
小さな頃からずっとだ。
主張する内容も 
どうやらあんまり変わってないようだ。

でもその主張と裏腹に
心は繊細で
強い口調の裏で

返された言葉に傷だらけになる。



その不器用さに
哀しさとあきらめの
眼差しを向けていた。

見透かされていた。
だからこそ余計に
長女も孤独を感じてきた。


私の頭の中もグラグラ揺れた。


彼女の主張は少しも間違いではない。
意見は言ってもいいのだ。

でもその先を考えない。
言われた相手の不快感も、
まとめあげられた場を
こわすことになることも。

それでも、
主張することは正しかった、と
言うべきなのか。

それともただただ寄り添えば
良かったのか。

わからなかった。


ただ、その時 

彼女は将来、社会でやっていけるのだろうか。
そんなことが頭をよぎった。

会社や組織で生きていくのは
無理かもしれない。

こんなに主張が激しければ
結婚だって難しいかもしれない。

でも彼女にはまだ画がある。

今はそれだけでもいいのかもしれない。

完全な味方にはこれからも
なれるかわからない。

でも親として、母として
せめてできることは
彼女が孤独に震えているのなら

味方になれる努力をしよう。

その覚悟をしようと思った。

ずっと味方になれなかった
罪滅ぼしもあった。

「これからは味方になる。

 画のためには学校にも行かなきゃ。
 発表会のために 
 せっかく練習したんじゃない。
 このまま学校に戻らなかったら、
 負けた気がしてお母さんの方が悔しい。
 送っていくから学校に戻ろう。」
 
ひとしきり泣いたあと、
長女は学校に戻り、
発表会に参加した。

後になって思えば
その決意が
良かったのか悪かったのか
わからないけれど、

この時から、私と長女の歯車が
ようやく噛み合って回り出した気がした。
  
                 つづく
              

           

















トリニティ

回り続ける三つの渦が、 織りなす世界を綴ります。