雨上がりの傘  ⑦ 秘密基地

夏休みになった。
本格的に作業が始まった。

事前に廃材の窓枠や、
障子、両開きの扉など、
使ってみたい廃材を分けていただいた。

でも床の基礎、柱、になる木材
床、屋根のベニヤ板に
トタンなどは購入だ。
今時はサイズを伝えれば
ホームセンターでカットまで
してくれる。
ずいぶん作業が楽になる。
費用としては材料代の予定は
3万くらいのはずだった。

床の基礎作りには約束通り、
S氏の弟子のYさんが市内から
バイクで駆けつけてくださった。
そして同じ中学に通う
幼馴染みの兄弟君達も
応援に来てくれた。

基礎はやはり大切で、
人が乗っても床が抜けない
強度が必要だ。
更にモバイルハウスだから車輪も
つける。
枠をきっちり作って
枠に木材を渡して補強し
床板を貼る。

お弟子さんが指導してくださるので
大事な部分がきっちりと
出来上がっていく。

男子達は初めての作業に
戸惑いながらも真剣そのもの。
みんなで協力して
少しずつ組み立てられていく過程は
大変でも高揚感がある。

あっという間に日が暮れて
作業はライトをつけて続く。
今夜は泊まりの作業だ。
暑さと蚊との戦いでもある。

ずっとお兄ちゃんが欲しい、
と言ってた息子が
Yさんの指示にきびきびと
従い、憧れの眼差しを向ける。
とても嬉しそうだった。

夜遅くまで作業して
Yさんと4人で歩いて温泉に行った。
夜中まで就学旅行のような
騒きだった。

翌日の夕方までYさんは
お手伝いしてくださり、
なんとか柱が立った。

柱をまっすぐに立てる、
これが当たり前のようで
なかなか難しい。

世の中は知らないことばかりだと、
改めて思う。



餅は餅屋と、知らないことは
専門家に任せておくのは
気が楽だし、安心だ。
でも目の前で起きる
「見る」、「知る」
「体験する」
は「知ってるつもり」を
どんどん覆していく。
なぜその作業が必要なのか、を
結果が教えてくれる。

暑い中を黙々と作業が続き、
ようやく家の枠組みが
出来上がった。
壁の張り方を教わると
ひと段落だ。

息子達は冷たいアイスを
頬ばりながら
家を見上げる。
汗まみれの疲労感とともに
言葉にならない、
小さなため息が聞こえる。

息子の物づくりをそばで見てきて
この無言の、
小さなため息
の瞬間が好きだった。

Yさんはバイクにまたがり
帰って行った。
穏やかな優しさの中に
強さを感じる人。
男子達の心の中では
すっかりヒーローであり
お兄さんだった。

彼がいなかったら
この夏休みの秘密基地作りは
成り立たなかった。

息子の思いつきに
巻き込まれた形のYさんだったが、

いつか息子達が大人になった時に
自分より年下のもの達へ
手を差し伸べることができる人に
なることが
Yさんへの一番のご恩返しに
なるのかもしれない。

そんなふうに思わせるほどに 
彼の指導はさりげなく
思いやりにあふれながらも
自然体だった。


          秘密基地 も少し つづく













トリニティ

回り続ける三つの渦が、 織りなす世界を綴ります。