自然の中で
こども達の小学生時代の
1番の思い出は
それぞれの子どもたちが
小学生3年生から6年生までの間に
2〜3回は参加した
子ども村のキャンプだと思う。
K市の山の廃校を利用したその施設では
年間を通して
「おいしい村づくり」という活動があった。
月1回の活動で、その季節の農作業や
旬の食べ物を使った料理を作ったりを
親子で体験するのだ。
木造の古い校舎と、古い小屋。
今ではずいぶん設備も整ったが、
当時は廃校がまだそのまま使われていた。
最初に参加したのは
タケノコ堀りだった。
地面の微妙なふくらみを
おばあちゃんが斜面を歩きながら
見つけていく。
「ここ、掘ってごらん。」
慣れないクワやらスコップやらを
使って懸命に掘ると
タケノコの先っぽが顔を出す。
まだ長女が小学2年生、長男が年長、
次女が3歳くらいで、
タケノコ一つ掘り出すのにも
みんな自分がやりたがって
テンヤワンヤだった。
大きなタケノコを皮のまま
野外の簡易カマドに大鍋をかけて
ヌカを入れて溢れんばかりに
強火で炊く。
そうするとヌカに灰汁がついて
取れやすくなるのだ。
初めて見るワイルドなタケノコの
茹でかたに感心したものだった。
また新鮮なタケノコに味噌をつけて
食べた美味しさも忘れられない。
6月には田植え。
子どもの体験にと、思ったのに
結局最後には私が1人だけ
田植えをしている横で、子どもたちは
泥足で走り回っていた。
手植えの大変さが身にしみた。
一度は秋の深まる頃に
廃校の小屋に夫と長女と長男で
泊まりがけで参加した。
団子作りや、わらじ作りをした。
夜にストーブを囲んで、
長女は意外に器用にわらじを編んだ。
寒くて上着を着たまま寝たらしい。
幾度かのイベントに参加してるうちに
長女が子ども村のキャンプに
参加したいと言い出した。
夏休みの5泊6日ののキャンプだった。
「子ども村」
大学生や高校生のポランティアが
アニマと呼ばれるお兄さんが
5〜6人の班ごとの
リーダーになってくれて
子どもたちのやりたいことを
サポートしてくれるのだ。
毎日今日何をするかは
みんなで話し合って決める。
朝の自由時間には
早朝虫取り、近所の牛舎の牛の
世話をしたり、
農作業を手伝ったり。
ご飯も1日1〜2回は自分たちで作る。
手洗いで洗濯もするのだ。
不便な生活を楽しむ。
また、大きな1日のプログラムとして
川遊びの日、山登りの日、キャンプファイヤー
最後の日にはオールナイトで
やりたいことをやろう!など。
私が子どもでも参加してみたい!
と思うプログラムだった。
初回の長女の参加は大変だった。
戦う女子の長女は
当時の参加者は20数名だったと
思うが、まずは同じ班の子と
大ゲンカした。
相手もなかなかの強者女子で
大乱闘になりそうだったと聞いた。
その後も数人と小競り合いを
したそうだ。
早朝の虫取り、牛の世話は大好き
だったけれど、
山登りでは、暑いのに登りたくない!
と主張してアニマたちを困らせた。
なんとか説得されて大泣きしながら
登山したらしい。
オールナイトでは顔に
ペインティングして
お菓子パーティーや肝試しで
大はしゃぎ。
3時間くらいしか寝なかったと
得意だった。
お迎えに行った最終日、長女は
廊下から私を手招きした。
「お疲れ様。どうだった?
楽しかった?」
と、廊下の隅に呼ばれて長女に尋ねた。
すると、長女はズボンのポケットから
大事そうによもぎ団子を取り出した。
お団子は何にも包んでなく、
ポケットの中の糸屑や
チリがついていた。
長女は小声で
「お母さん、これね、おばあちゃん達が
お昼に出してくれたお団子。
すごーく、美味しかったんだよ。
だからお母さんにもあげようと思って
こっそり取っといた。」
得意げに言った。
「えーーー、っと。
う、嬉しいけどお腹いっぱいかな。」
ちょっと焦る。
「でも、すごくおいしいんだよ!」
「えーっと、じゃあ◯ちゃんが食べても
いいけど〜。」
「え。ほんと?じゃあ食べようっと。」
と、言ってそのいろいろくっついた
お団子を嬉々として食べていた。
午前中の活動の後のお団子は
格別だったのだろう。
子ども村の話が出ると、
その時の長女の
ポケットの中からお団子を出した
まだ子どもらしい小さめの手と、
長女の想いを無にしてしまった
申し訳なさを一緒に思い出す。
翌年息子も参加した。
忘れん坊大将だった息子には
持ち物管理を徹底するように
言って聞かせたいた。
長女に加えて息子もなかなか
心配してたが、お迎えに行った日
主催者の方から
お姉ちゃんより、
全然手がかからなかったと、笑われた。
持ち物もとりあえず名前が書いてあるから
戻せるし、
ぐちゃぐちゃだけど、
彼なりのルールがあるらしく、
一緒懸命自分で管理しようとしていたよ。
自分のしたい事がはっきりしてるし
じっくり取り組むねと。
子どもたちの良いところを見つけてくれる。
子どもが主体のキャンプならではだ。
次女が参加する頃には
長男も長女もいなかったが、
その分お友達と参加できて
次女もすごく楽しかったようだ。
主催者の方から、◯ちゃんがいると
場が和むから毎年来て、
と言われた。
笑顔は次女の特技だった。
次女は上2人と違って昆虫が
嫌いだったし、
自己主張も少なかった。
川遊び、それも吊り橋の上から
川に飛び込むチャレンジを
3年目にようやく達成した。
誰かが強いるわけでもなく
時間をかけて自分で決めた
チャレンジだった。
お迎えの時に得意げに報告してきた。
上の2人は勢いだけで飛べる性格だった。
それぞれの中に
火起こし、飛び込み、虫取り、
牛や鶏との触れ合い、
オールナイトの夜更かし
三人三様の思い出がある。
中学1年の学校での宿泊訓練の
キャンプの時に火を軽々起こせたり、
川を見れば橋から飛び込んだ話になり、
ふとした日常の中でも
あの時ね、と子ども村の話が出てくる。
今、大学受験の勉強中の次女も、
「子ども村みたいな生活、またしてみたい。」
と、その時の風景を思い浮かべながら
懐かしそうに話す。
そんな時、しめしめと思う。
子ども3人連れて
タケノコ掘りをしたり、田植えしたり
なかなか大変な作業だったけれど
体験に勝るものはないと、
私にしては相当頑張って
参加してきた。
田舎のむせるような緑の木々や
田んぼの風景と赤トンボ。
木造の校舎と競争できる長い廊下、
アブラゼミと蜩の鳴き声の違い、
校庭を時折渡る涼しい風。
目を閉じて飛び込んだ川の水しぶき、
牛のお尻と干し草。
吹いて仰いでやっとついた炎。
そんなひとつひとつの景色が
ふとした時に心が戻れる場所に
なったら
そうなったらいいなと願っていた。
普段は怒ってばかりいたし、
子育てが難しく感じて
優しい言葉をかける余裕もなくて
寝てる子ども達の寝顔に
謝ることも幾度もあった。
それでも日常を離れて、
子どもたちと自然の中に
はいっていげば
意図することなく
時間が過ぎていく。
何も与えようしとしなくても
与えられている。
たくさんの自然からも
おいしい村の主催者の方からも
教えられ、励まされた。
あの頃の大学生や高校生からも
おおらかな目で子ども達を見てもらえた。
のびのびと過ごす1日の豊かさを
子どもたちと一緒に
私も受け取っていた。
そして今、
成長した子どもたちの中でも
おいしい村や子ども村の体験が
自然の織りなす風景が、
心の中の懐かしく温かい場所として
大切に息づいている。
しめしめ なのである。
行き詰まって苦しい時、
呼吸が浅くなって、
目の前が狭く感じた時に、
心の中の、そんな場所を思い出して
自然のなかに出かけてほしい。
何も答えが見つからなくても、
緑の木々や
おいしい空気が
ひんやりした川の流れが
大きな深呼吸が
きっと心と体をゆるめてくれるから。
必要な方に届きますように。
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