1番はわたし。① えがお

きゃっ、きゃっ。

その声に驚いて振り向くと
生まれたばかりの日の夜中、
その子は声を出して笑っていた。

えーっ、と驚きながら覗き込むと
たしかに笑っている。

なんとも可愛いらしい顔で笑っていた。
それだけでとても幸せな気持ちになれた。

3番目の女子はよく笑う。

2番目の男子の子育てに疲れ果て
3番目の妊娠をなかなか喜べなかった。
最初に気づいたのも夫だった。

でも産まれてみると
可愛くてしかたなかった。
よく笑い、よく寝て、健やかだった。

1番喜んだのが息子だった。
自分のお気に入りのおもちゃを握らせたり
握らせたおもちゃでガツンと叩かれても
「◯ちゃんにやられたー!」
と、半泣きで笑っていた。

上の2人は幼稚園に通っていたので、
3番目はおじいちゃん、おばあちゃんに
子守を頼むことが多かった。
人見知りもしなくて、
笑顔でいくので
とても可愛がってもらえた。

歩くのも早くて、
1歳前にはジャングルジムに
ぶら下がっていた。
腕の力が強いのに驚いた。

もしや運動神経が良いのかも。
おじいちゃんに似たのかな。
そんな期待をさせる成長ぶりだった。

主張の強い長女と、
要求の多い息子の間で
右往左往している間に
次女はすっかり
おじいちゃん、おばあちゃん子に
なっていた。

上の子の送迎から戻ってくると、
外は寒いからと廊下で三輪車に
乗せられていた。

ある時はおばあちゃんの部屋の
ドアを開けると
おじいちゃんと、おばあちゃんが
縄跳びを握って板の間で
次女を飛ばせていた。

な、な、なんて自由な、と思ったが
ありがたかった。

「◯ちゃんはなんでも上手よ〜。」
おばあちゃん達はいつも褒めていた。

2歳の頃には1人で
いとこ宅にお泊まりもできた。
なんだか早い自立を淋しく感じる。

でも、上の2人よりずっとずっと
手がかからず平和な幼少期だった。

ただ食いしん坊だった。
というより、お菓子好き。
おばあちゃん子の特徴かもしれない。

ある夏の日、1歳半の頃
廊下で何やらモグモグ食べていた。

その頃、毎年カブトムシと
クワガタを育てていた。
次女が食べていたのは
カブトムシゼリーだった。

驚いた。数年飼育しているが
カブトムシゼリーを食べた子は
初めてだった。
その後異常はなかったので、
食べても問題はなかったのだろうけど、
大人しいけど、食べ物注意だ。

長女や息子の友達が遊びに来て、
お菓子をお皿に入れて
出していると、
どこからかゴソゴソやってきて、
みんなが遊んでいる間に
1人でモグモグしている。

長女に見つかると
本気で怒られる。
でもケロリと逃げていく。

肝の座りかたは姉妹で同じだった。

息子も幼稚園生だったし、
幼稚園にも慣れていたので、
3歳になる歳から幼稚園に入園した。

入園式の日、教室で隣に座ったのも
上2人がお兄ちゃんの3番目さんで
園庭でもすでに一緒に遊んでいた
顔見知りのKちゃんだった。
最初は2人でクスクス笑いながら
つつきあっていた。

何か気に入らないことを言われたのか、
次女が笑いながら
荷物の入った手提げバックで
Kちゃんの頭をはたいた。
びっくりした。
するとKちゃんも笑いながら
同じように荷物の入ったバックで
はたき返した。
そして2人で笑っていた。

母同士で顔を見合わせた。
「3番目、コワイね。。」
そんな会話を交わしたが、
徐々に本当の怖さを知る。

次女の初めての運動会の日、
長男は年長だった。
年長さんは出番が多い。
かけっこ、、綱引き、組体操、
鼓笛隊のパレード。
役員をしていたので私も大忙しだった。

次女の出番はかけっこ、おゆうぎ、
親子障害物競走だった。

赤ちゃんの時の期待通り、
運動神経が良さげな次女は
足が早かった。
練習でもいつも1番と自慢していた。
かけっこはもちろん1番だった。
年少々とは思えない真剣な顔で走る。

親子障害物競走の番だ。
次女と反対側からスタートを切って
出会ったところでワッカに入り
一緒にゴールするのだが、
私がワッカを取るのが遅くて
3位だった。
お父さんもいたし、
仕方ないよねーと声をかけようとして
驚いた。
次女が泣いていた。
唇を噛み締めて、涙を拭いていた。
「◯ちゃん、ごめんね。
   そんなに悔しかったの?」
と聞いたが、
それから家に帰るまで口をきいて
もらえなかった。

3歳にして、怖すぎた。
翌年は夫に出てもらった。

翌年、隣村のマラソン大会にも
参加した。
メインは長女だったが、
せっかくだから息子と次女も
3キロコース、歩いても大丈夫そうなのに
夫とともに申し込んだ。

息子は歩いたり走ったり
呑気なものだったが、
次女は違った。
1度も止まることなく走り続け、
父親が休もうとするのも許さず
最後まで走り切った。
4歳半だった。

この根性はどこからきたのか。
不思議だった。


いまだによく見る、子ども達のビデオがある。
父親と子供3人と
当時の飼い犬のクッキーとの散歩風景だ。

長女が犬を連れて先頭を歩いている。

息子はのらりくらりと1番後ろを。

次女が泣きながら、長女の後ろを
追いかけている。

5歳ちがうから歩いている長女にも
追いつかない。
まだ2歳半くらいのビデオだ。

「◯ちゃんが1番なのよー。
 ◯ちゃんより先に歩かないでー。
 1番は◯ちゃん!
 もう、お姉ちゃんのバカー。
 1番は◯ちゃんよー。」

と、ずっと泣きながら
言い続けているのである。

長女は全く意に介さず
クッキーと歩いてる。
クッキーの方が心配してチラチラ
後ろを振り返る。

ビデオにはひたすら
次女の泣きながら走る様子が映っているが
父親もこの負けず嫌いぶりと
長女の知らん顔が
おかしかったのだろう。

ふだんは平和そのものの笑顔を
ふりまく次女の、意外な一面が
残るビデオになった。

            
            
           次女編  つづく















トリニティ

回り続ける三つの渦が、 織りなす世界を綴ります。