夜の滑走路 (亜紀ちゃん)

「今からお話することは、私の妄想です。」
亜紀ちゃんは、うつ伏せになった私に向かって
静かにそう言った。
聴き慣れた言葉に
毎回少しだけ笑ってしまう。

亜紀ちゃんが横たわる人の
身体に触れると
見えてくるビジョンがある。
それはその人の過去なのか、未来なのか
はたまた違う次元のことなのか。

私の通ってきた道を見据え、
心を寄せてくれる言葉は
それだけで過去を癒し
道のりに花が添えられていくような
気持ちになる。

亜紀ちゃんの手が体と心に触れて
紡がれる言葉に響き合うとき、
その場に癒しが起きていく。

そして伝えられた言葉が
後日のある日に映像として起きた時
キラキラと粒子が輝いて、
それはまるでパラレルな世界へ
移行した合図のように
特別な場面となる。
 
それは秋のある日だった。
次女とその友達を連れて
山の水源に向かった。
「自然の中に行きたい」
次女のリクエストに応えて
出かけた。
山奥の水源に向かって
紅葉の始まった森を歩く。

JKの女子達は至る所で
写メをとりながら
転がるように笑う。
その様子を少し先を歩きながら
微笑ましく振り返る。

眩しい太陽が上空から木々の中に
光を差し込んできた時、
ひと月前の亜紀ちゃんの言葉が響いた。
「木立の中を歩いていると
 眩しいくらい太陽の日がさして、
 見上げると杉の木がたくさんあって。」

同じように差し込む光の
眩しさに顔を上げると、
木立の木に「杉」と
書いた名札がつけてあった。

吹き出した。
「杉」で間違いなかった。
たしかに杉の木立を歩いていた。

ほら、光が反射した空気の粒が
キラキラと舞い私の周りを包んでいく。

水源の奥に祀ってある
水神様にお参りした。

ああ、きっとこのために来た。

答え合わせのように、
言葉が現実になる。

ある時は湖の白い鳥居。
10分前まで吹雪で船が動くか
わからなかった。

でも、湖の青さの中に映える白い鳥居は
亜紀ちゃんの言うように
光の中で待っていた。

そして、その島を離れる時に
また空は灰色に沈んでいた。

まるで亜紀ちゃんの言葉を
現実に見つけることが
パラレルな世界への約束のように

導かれ、進んでいることを
私の中にゆっくりと
おとしこんでいく。

もし、何も知らなくても
きっと、
それはそれで進めるのだろう。

けれど、それはある意味
夜の滑走路のように

暗い、青い空から
地上に着地する
怖さや不安と似ている。

信じるだけでよくて
目をつぶりながら
見ないようにして
降りていくこともできる。

日々の出来事はいつも着地点を
探しているようなものだ。

でも、 
もし暗い見えない着地点に
翼を向ける時に
そこに青と緑のライトが
点々と光って見せてくれて
ここに降りて来れば
大丈夫だよと、
知っていたとしたら。

その光は心強く、優しい。

亜紀ちゃんの言葉は
そんな夜の滑走路の光のように
降りていく足元の少し先を
照らしてくれる。


亜紀ちゃんと
お会いする機会が増えて
その人となりを
知るようになって

向かい合う人たちに
どれほどの意識を向けて
言葉を紡いでいるのかを
知る。


亜紀ちゃんが見える
その人の世界が
その先の良きことに
つながり榮えますようにと
祈りとともに渡されていく
言葉たち。

その言葉が
受け取る人の
気づきのなかで
光り輝く粒子となり、
その人を包み込んで
次元を超えているのだとしたら。




そんな亜紀ちゃん。
必要な方に届きますように。
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トリニティ

回り続ける三つの渦が、 織りなす世界を綴ります。