サラサラの日々

庭での時間が増えて
土に触れながら
わたしとワタシが一つになっていく
体感を
どう表現したら
伝わるかを考えていた。


それは
血液がサラサラになって
滞りなく流れていく様に
似ている気がする。



肩肘を張って主張しようとする
イガイガのワタシは
血液の中で異物を見つけては
流れを止めて
検問してるような感じ。



イガイガが血管の中で
検問を始めると
いろんな物が引っかかって
血管を詰まらせ
さまざまな症状が
起きていく。



現実的には
反発だったり
口論だったり。



イガイガのない少ない暮らしは
心地よく平穏だと知る。




かといって
毎日が
何も起きずに過ぎていく
訳ではなかった。



けっこう、ドキドキするような
事件も起きていた。





起業に興味がでてきた息子が
お金のIQ本とかを読み始めて



そちらに意識が向き始めると
その手の情報はネット上には
あふれていた。


そしてかって
大ベストセラーになった著者の
無料オンラインセミナーにたどり着くと
 


その後に落とし穴が待っていた。



4時間にわたる
お金に関するオンライン無料セミナーが
終盤に近づくと


オンラインセミナー受講の特典として
通常〇〇万円かかる
講座費用が何割引きで
今回に限り受講できます、
この後〇十分以内。
なんてテレビショップ並みの
煽りに乗せられて


普段は慎重なほうの息子も
なんだか申し込まないと
損をする気分になり


つい、申込みの同意書を書いてしまった
らしい。


そのあとオンラインの対面zoomで
営業をかけられまくり
同意書とともに
契約書にまで
サインさせられ
申込金の◯万円を
クレジットカードで支払った。


本人は同意書を書いた時点で
なんだかすごく
怪しい気がして
断り始めたらしいが


担当者は
同意書を書くことは
契約書にサインしたことと同じ
(ではないからこそ書かせる)
と、強く言い張り


すでにキャンセル料が
発生すると言われ
一歩も引かず
1時間近く
説得し続け
夜中の12時を過ぎて



根負けした息子は
そういう状況なら
これ以上抵抗しても無駄なのかと
契約書まで
サインしてしまったらしい。



その経緯を聞いて
本当にびっくりした。


恐ろしい世界になっていた。


その昔、キャッチと呼ばれる
街を歩いている女性に声かけて
高額エステを無理矢理
契約させる悪徳商法が
あったが


ネットの世界でも
同様の方法が
zoomなどのオンラインセミナーの名の下に
行われていたのだ。


もちろん全てが
悪いものばかりでは無いと思うが
 


後で聞いたセミナー販売会社の名前を
検索をすれば
高額セミナーでの起業の勧め
=マルチビジネスの推奨
からの高額商品の販売と
パターン化しているようで
そのまま行けば 
セミナー代金プラスの高額商品の代金まで
支払わされるようになっている模様。



息子も契約後に
いろいろ調べてショックを受けていた。

ただ根負けして契約したことへの
悔しさ半分、
それでも、もしかしたら
ベストセラー本のセミナーだし
販売会社が強引なだけで、
セミナーはまともなのかもと
と淡い期待半分の気持ちで



その後の対応に関して
キャンセルすべきか
何万もキャンセル料を取られるなら
いっそ何十万ローンを組んででも
セミナーを聞いて
情報を得た方がいいのではないかと
ゆれまくっていた。



話を聞くなり

そんなものに参加をすれば
余計な商品まで買わされて
大変なことになる!

もうこれは
さっさとキャンセルの手続きを
するべき!と

いかにも息子が世間知らずで
とんでもないとばかりに
説教まじりに
説得した。


ところが
ベラベラと
話しながら
何かが
ひっかかる。



「これは誰の問題?」

心の声がわたしの中にひびく。


そして同時に
ワタシが説得すればするほど


息子は
いや、まだちゃんとした
セミナーが聞けるかもしれないし、
と意地を張り出すのである。



これは
今までのパターンではないか。


「わたしが決めること?」


私が見つける情報なんて
息子だって見つけている。


ワタシが
言えば言うほど
息子は本心から
はずれて
ちがう結論に
結びついていく気がする。


これ以上何も
言う必要はないんじゃないか。


わたしが
まだ息巻いているイガイガのワタシの
肩をトントンと
叩いて
 

「もういいじゃないですか」


と、お引き取りを願った。



「キャンセルの方法は
 ネットにも書いてあったよね。
 それでも支払ったお金は戻らない
 かもしれないけど
 それを8日間のうちにやっとかないと
 法的手続きもできないから。
 あとは自分で考えて
   手続きしてね。
   私の意見は言ったので。」


そう言って切り上げた。


自分で考えて

自分で判断する。
 


もう、それができる年齢だった。


一から十まで言わなくても
自分で調べて
自分で対応もできる。


任せてみよう。



そう思えたら



イガイガのワタシが抱きしめていた
その先の先までの心配を手放せた。


それから
あまり心配をよせることなく
日々が過ぎて


6日目になる頃
息子から連絡が来た。


「ネットで調べて
   その会社がクーリングオフが
   通用しない契約方法を取っていることが
   わかったから
   契約解除通知を
   契約書のコピーと一緒に
   受取通知がわかる
   レターパックで
   カード会社と両方に
    送ったから」


と、連絡があった。
消費者センターにも電話をいれたが
あまりラチがあかず
ネットで見つけたやり方にしたと。


「ただ、俺は
   あのセミナーが
   ただのマルチ商法セミナーだとは
   思えない。
   アメリカでその作者の父親が
   始めたそもそものセミナーには
 ビル・ゲイツも
 スティーブ・ジョブスも
 受講してるから。
 今までにない新しい物を作った
 人たちが感銘を受けてるし、
 普遍的なものがあると思う。
 いつかアメリカで本物のセミナーを
 聞いてみるから」

と、付け加えた。


それは
ワタシが
「そもそも、あんな10年以上前に
 ベストセラーになった作品の
 セミナーなんて時代に合わないし
 古すぎる」

と、言ったセリフに関しての
返答だった。



書いてみると

ワタシの短所は
相変わらずだ。



結構な割合で
1つの出来事で
全体を否定的に見てしまう。



そこは大いに反省すべき点だ。





そして、レターパックを受け取った
セミナーの販売会社からは
幾度かのやりとりの末


「キャンセル料20%を
 今回に限り 
 減額します」

と、最初の半分の金額で提案してきたようだ。



これ以上の減額は
おそらく弁護士などの手続きが
必要になって
かえって費用が発生するのかも
しれないが、
一応無料相談だけしてみるそうだ。



減額されたとは言え
息子にとって
◯万円の支払いは
大きな痛手ではあるけれど



息子にとっても
ワタシにとっても



得難い経験になった。



息子は
自分で自分の後始末を
つけた。


納得はできないが
いろいろ調べて
手続きをとったことで
多少の減額まで持っていけた。



わたしもワタシの
間違いやすい点を改めて
自覚した。




誰にでも起こりうる出来事を



どう対処するか
どう考えるか


それは
人によって
本当に千差万別。



親子でも
息子が学生でも


相手の思考や意志を


否定や
押し付けるのでもなく


まずは
尊重すること。




正しさを主張することは
それだけで
戦いをしかけているのと同じだ。


剣は振り回せば振り回すほど
自分の軸がズレていく。



相手にも信じている正しさがある


それを

認めること。



そして、どう対処するかを

委ねること。



その判断を

信じること。




行動をすれば
何かしらが動き出す。




親がやれることは
行動の後押しで
充分なのだ。




この出来事に関して
今までと
ちがうことがあるとすれば


ずっと
心配しつづけなかったことだ。



 
そう、わたしの問題ではなかった。




手のひらは
いつも


にぎりしめることも
ひらくことも


選べた。




 

サラサラの日々は


近づいたり
離れたり。


でもその
心地よさを知れば


きっと
また近づいていく。




トリニティ

回り続ける三つの渦が、 織りなす世界を綴ります。