選んでいいの?涙の告白 ⑦


年が明けた。

高校3年生のセンター試験が終わると
長女達も、模試が続く。
土日をまる2日、模試に取らるようになった。

長女がまた、極端なことを言い始めた。

「朝は課外で、土日は模試。
   ゆっくり画を描く暇がない!
 もう、高校を辞めて画を描きたい。
 フリースクールに行きながら、
 自分で勉強して、午後から
 画の予備校に行きたい。」

またですか。

高3に進学する目前に
何を言っているのかと思った。
志望校はそのままなのに、
それは無理だろう。
今までなら、
何言ってるの?と取り合わないところだ。

でも 味方なら どうする?


頭から反対することは避けたかった。
本人の言い分を聞いて、
いくつかのフリースクールのパンフを
取り寄せた。

それは自由で良さげに見えた。
でも志望校の偏差値をどうする?
本人は自分でやる、と言う。

アドバイスの言葉も見つからなかった。
だから言った。

「お母さんには
 それがいい判断なのか
 わからない。
 画の予備校の先生と、
 高校の先生と両方の意見を
 聞いてから考えよう。」

珍しく素直に聞き入れてくれた。

緊張した面持ちで、画の予備校に向かった。
担当の先生はT芸大出身だ。

娘の意向を聞くと、
先生は答えた。

「高校を辞めるのは賛成できません。
 ここで午後からずっと
 画を描くのは
 孤独な作業です。
 思っている以上にキツイですよ。
 そして、
 それより大事な話があります。
 K芸大は、ここで教えている
 デッサンとは全く違う描き方です。
 ある意味、ここで学んでも
 合格できないのです。
 数年前に、そこを目指していた
   学生がいましたが、
 受験してみて、そのデッサンの違いに
 驚いて、翌年は別の大学に進路を
 変えました。
 本当にそこを目指すなら
 夏休みには、関西の画の予備校の
 夏季講習に
 行かれた方がいいでしょう。」

2人でびっくりした。

週に2回通っている程度だったから
進路の話もしっかりできてなかったのだ。
そこまでしなくちゃいけないんだ。
私もショックだった。


気を取り直して、高校にも出かけた。
高校の先生も驚きと共に、
顔をしかめた。

「美術系の大学を目指す人は少ないので、
 アドバイスはできませんが、
 センター試験が必要なら、
 フリースクールはオススメできません。
 パンフレットではわかりませんが
 授業内容の差に驚かれると思います。」

長女は食い下がった。
 「でも、私の受験に
 必要のない課外を受けたり、
 模試を受けたくないです。
 そんな時間に画を描かなきゃだから。」
年配の先生は悠長に
「受験に必要ない科目だって、学問なんだよ。
 あとで振り返るとわかるが、云々」

気の短い娘は、
「そんな余裕はないです!
 私は必要のない科目の模試は
 受けたくない。

 それが認められないなら、学校辞めます」

と、啖呵を切った。

話の途中で遮られた先生はムッとした
様子だったが、

「そこまで、言われるならわかりました。
 ただし、模試を受けないなら
 今のクラスにはいれません。
 例外は認められないからです。
 クラスが変わることは覚悟してください。」

はあああ〜。なんとかなった。
辞めずにすむのかも。

心の中でホッとした。

長女も自分の言葉で話をしたから
相当緊張していた様子だったが、
自分の主張をなんとか聞いてもらえた
小さな満足感もあったのか、

「クラス、変わるんだ。
 めんどくさいなー。 
 でも、ま、このままやってみるか。」

と、つぶやいた。
画の予備校の先生の話も
頭をよぎったのだろう。


なんだか不思議だった。
辞めることも覚悟しなきゃ、と
自分に言い聞かせてきた。

いつもは私のところで話を止めて、
私と長女で戦ってきた。

でも、

味方だったら?

と一歩引いて
長女に主導権を渡し、
周りに委ねてみたら
より専門的な見解を聞くことができた。

長女の視点も広がったのだ。

私が守ってきたものは

なんだったのか。


そう問われた気がした。


自己主張の強い長女が小さい頃から
学校で起こす問題に怯えてきてた。
頭を下げることが多かった。
だから長女の突飛な行動や発言を
家の中で
押さえ込もうとしてきた。


でも、今日彼女は
ステップを踏んで
自分の言葉で話し(フォローはしたけれど)
自分の中で折り合いをつけることが
できた。

できたじゃないか。



 味方


そうか、味方ってこんな感じなんだ。

それって

 シンライ 


と、似ている。

知っている言葉と、響きが違って聞こえた。

桜の花びらが舞った。


長女は高校3年生になった。

トリニティ

回り続ける三つの渦が、 織りなす世界を綴ります。