1番はわたし。② えがお

 
次女は普通にしていても笑顔に見えた。
それはお得なことも多かったけど
たまに損することもあった。


長女と息子の小学校の運動会の日。
2人の出番を追いかけている間、
次女は暇なので、幼稚園のお友達、
例の3番目同士のKちゃんと
日陰の体育館前で遊んでいた。
同じく暇を持て余していた夫を
見張りに。

2人は仲良く泥団子を作っていた。
くるくるしたおめめのKちゃんは
おしゃべりも上手で、
クスクス笑いながら
楽しそうな雰囲気が伝わってきていた。

しばらくその場を離れて戻ってくると
体育館入り口前で
夫が倒れていた。

「何してるの?」
と聞くと、
「泥団子食って死んでる。」
「泥団子?」
聞き返すと、
「あの子たち、めっちゃシュール。
 2人して、
 『はい、お団子よ。食べて〜』
   って、泥団子持ってきたから、
 『ありがとう!いただきまーす。』
って、食べるマネしてたら、
 『は、は、は。だまされたな。
  今お前が食べたのは毒団子だよ。
  もう、お前は死ぬんだよ。
  はーはははは。』
と言われて、死んでる。」
それは、シュールな笑顔だった。

シュール好きの夫は、
死んだまま嬉しそうだ。
 いつも子どもの期待を超えた
リアクションをとることに
情熱を燃やしていた。

でも、もう存在を忘れられていた。
2人は泥団子でお母さんごっこの
遊びに移っていた。
3番目は遊びの展開も早い。

次女から「遊んで」
と言われた記憶がない。

幼稚園に連れて行けば、同じような
下の子同士で遊び、
家にいれば
おじいちゃんやおばあちゃんが
手厚く遊んでくれる。

幼稚園に上がると
毎日、仲良しのお友達の家に
遊びに行って、
そこのおじいちゃんとおばあちゃんにも
「2人とも孫みたい。」
と言われるくらい可愛がって
もらっていた。

おかげで次女は今でもお年寄りが好きで
好きな先生方はほっこりした
ややご年配の方ばかりだ。

手がかからないことにくわえ、
次女は上の子ができるとことは
自分にできないはずがないと
思っていた。
疑いがないってすごいパワー。

息子が補助付き自転車を
練習していると、
わたしも!とばかりに、
三輪車から自転車に乗り換え、
息子が補助輪を外すと
自分も外せと言い、
息子を追い越す勢いで
自転車を乗りこなそうとする。

赤ちゃんの時はめちゃめちゃ
次女を可愛がった息子も
だんだんライバル視するようになった。

そして長女は
次女が赤ちゃんの時から
「赤ちゃんなんて、ぜんぜん可愛くない。」
と、クールな対応だった。

だが。
忘れていけない。
夫が留守の時には
この長女が5歳の身ながら
赤ちゃんの入浴を手伝ってくれていた。

1人先に上がるとパジャマに着替え、
バスタオルを持って脱衣所に座っていた。
私が上がるまで、
次女をバスタオルに包んで
待っていてくれた。
おかげでどれだけ助かったことか。
そんなしっかり者の面もあった。


あったこともあった、のに。

冷や汗をかいたプールの思い出がある。
夏休みはいとこたちが
よく遊びに来ていた。

子どもたちといとこと連れて
プールに出かけていた。
子どもたちも、腰くらいのプールで
それなりに泳いだり潜ったりして
声をあげながら遊んでいた。

まだ2歳くらいだった次女を
浅瀬のプールで、
私が足だけ入って遊ばせていた。
すると長女が
私が遊んであげる、と次女を
おんぶして連れて行った。

次女をおんぶして、みんなで
鬼ごっこをしていた。
次女もキャッキャッと
笑っていた。
大丈夫かなぁ、とハラハラして
見ていたら、
長女が鬼になって
他の子を追いかけながら、
いきなり
「あー。もう、重い。」
と、次女を水の中に落とした。

「ぎゃー!」、と叫んだのは私だった。
飛び上がって、「誰か!」
と、叫ぶと、いとこが救い上げてくれた。

ヘナヘナと座り込んだが、
水から顔を出した次女は笑っていた。

それにも驚いた。

長女を叱りまくったことは
言うまでもないが
身を守るためかどうかはわからないが
次女はこれまた
早々に泳げるようになった。

長女という存在は
崖から我が子を突き落とす
ライオンの親みたいだった。

息子も次女も容赦なくやられ、
日に日にたくましくなっていく。

次女の視線はいつのまにか
息子を追い越し、
長女に向かうようになっていった。

でも、普段はとても平和に
笑っているので、
身内以外はその秘めた闘志に
気づかなかった。

「◯ちゃんはいつも笑ってるね。」
インフルエンザの予防接種の時も
そう言われた。
しかし、その笑顔は困った時のものだった。
長女が、最後まで抵抗を試みて
暴れている時も、
なんとなく笑って見えるから
あなたからね、と先に打たれて
しまう。
終わったあとに
私の服に顔をうずめて
泣いているのを見られないように
して、泣いていた。

えがおの裏にも涙あり。


長女はいつも誰かと張り合い、
息子はいつも自分の興味にしか
興味がなく、
次女は自分が得意なことにだけ
こっそり闘争心を燃やしていた。

まさに三者三様だった。


                つづく。






トリニティ

回り続ける三つの渦が、 織りなす世界を綴ります。